大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和47年(行コ)2号 判決

控訴人(原告) 福本岡一郎

被控訴人(被告) 国・広島国税局長・灘税務署長

訴訟代理人 細井淳久 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「被控訴人灘税務署長が、控訴人の所有にかかる原判決添付目録記載の不動産について、昭和三八年六月二〇日になした差押処分を取消す。被控訴人広島国税局長が昭和三八年三月九日控訴人を訴外有限会社みどりタクシーの第二次納税義務者もしくは保証人として、同訴外会社の滞納法人税額金二一九万三、七一〇円および加算税額金五四万八、二五〇円につき、控訴人に対してなした納付通知処分は無効であることを確認する。被控訴人広島国税局長が昭和三八年三月九日控訴人に対してなした納付通知処分にもとづく控訴人の被控訴人国に対する納税義務(本税額金二一九万三、七一〇円および加算税額金五四万八、二五〇円)は存在しないことを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは主文と同趣旨の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の関係は、つぎのとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一、第一次納税義務者である訴外有限会社みどりタクシー(以下単にみどりタクシーという)に対する課税標準、税額等の決定については、重大かつ明白な瑕疵がある。

(一)、被控訴人広島国税局長より同灘税務署長に送達した差押依頼文書には「滞納法人(みどりタクシー)は昭和三四年八月一七日無財産と同時に事実上解散した」と記載されているから(甲第九号証記載の第二、註(1)参照)、これを前提として、当時施行の法人税法第七条第五項に定める「みなし事業年度」を適用したうえ、みどりタクシーの課税標準、税額等を決定すべきものである。すなわち、同条同項によれば、事業年度の中途において法人が解散しまたは合併により消滅した場合には、事業年度開始の日から解散または合併の日までの期間およびその翌日から事業年度の末日までの期間をそれぞれ一事業年度とみなす旨定められているから、みどりタクシーがその財産全部を売却し事実上解散した昭和三四年八月二〇日までを一事業年度とし、その翌日である同月二一日から昭和三五年四月三〇日までを一事業年度としてそれぞれ課税標準、税額等を決定すべきものである。しかるに、被控訴人局長は右の「みなし事業年度」を適用せず、昭和三五年四月三〇日の事業年度の末日までを一事業年度として税額を決定し、この点で大きな誤りを侵しているものである。

(二)、みどりタクシーの本税額が金二一九万三、七一〇円と決定された事実は当事者間に争いのないところであるが、法人税率三三パーセントを適用して逆算すると、みどりタクシーの所得金額は金六六〇万円以上ということになるが、みどりタクシーには、このように多額の所得が生じたはずがない。すなわち、訴外安全タクシー株式会社(以下単に安全タクシーという)は現金三九五万六、九五三円、支払手形金六八〇万円合計金一、〇七五万六、九五三円を支払つてみどりタクシーの実権を掌握したのであるが、右金一、〇七五万六、九五三円には、控訴人の所有にかかる建物の売却代金一七〇万円が含まれているので、右金一、〇七五万六、九五三円より金一七〇万円を控除すると、実質売買代金は金九〇五万六、九五三円ということになる。ところで、みどりタクシーの資産は車両運搬具金六六三万四、〇〇〇円、什器備品金二一万五、〇〇〇円、営業権金二六四万円、電話加入権金二〇万円合計金九六八万九、〇〇〇円であり、これだけの資産を前記金九〇五万六、九五三円で売却することにより、果して金六六〇万円以上の売却利益金が発生したものと言いうるであろうか。全く不思議であるというほかはない。

二、控訴人は、昭和三四年八月二〇日甲第二、第三号証により、みどりタクシーに対する自己の出資持分全部を安全タクシーに譲渡し、みどりタクシーの代表取締役が控訴人より訴外角十七に交替したものであつて、みどりタクシーより安全タクシーに被控訴人ら主張のような営業譲渡がなされたものではない。

三、第一次納税義務者であるみどりタクシーから無償で財産の譲渡を受けた場合には、国税徴収法第三九条により第二次納税義務が発生するものというべきであるが、控訴人が、被控訴人ら主張のように、みどりタクシーから無償で財産の譲渡を受けた事実は否認する。

(一)、みどりタクシーは前記一、(二)項記載のように安全タクシーより金九〇五万六、九五三円を受取つたのであるが、当時みどりタクシーには、(イ)、支払手形金一七三万八、一七七円、(ロ)、借入金六三九万円合計金八一二万八、一七七円もあり、控訴人において、(イ)、右支払手形金一七三万八、一七七円より、安全タクシーが引受け支払うことになつている金一六九万三、〇四七円を控除した残額金四万五、一三〇円、(ロ)、右借入金六三九万円合計金六四三万五、一三〇円の支払をしたのであるから、控訴人が被控訴人ら主張のように右金九〇五万六、九五三円のうち金五七八万二、九九三円を譲受けたとしても、これをもつて無償のものであるということはできない。

(二)、(1)、みどりタクシーが受取つた前記金九〇五万六、九五三円から控訴人の支払つた金六四三万五、一三〇円を控除すると、その残額は金二六二万一、八二二円となるが、更に右金二六二万一、八二二円からみどりタクシーの資本金相当額金一一〇万円を控除すると、その残額は金一五二万一、八二二円となる。

(2)、当時みどりタクシーは事実上解散し、その代表取締役である控訴人、取締役である訴外武田憲司、同福本たかゑ、監査役である訴外白井清司ら役員はいずれも辞任することになつたが、これら役員に対する退職慰労金とか、名義上の出資役員に対する謝礼金、従業員二四名の退職にともなう労務対策費等のために約金一〇〇万円の支出を余儀なくされ、控訴人がこれを出捐したので、右金一〇〇万円もまた前記金一五二万一、八二二円から控除されなければならない。

(3)、右のような諸経費を控除しても、なお約金五〇万円の剰余を生ずるが、控訴人はこれまでに以上のほか説明できないような費用を支出しており、またこれを計算に入れなくても、控訴人の二年余におよぶ低収入に対する割増報酬、或いは売却によりみどりタクシーが受けた利益の分配金として、控訴人に支給さるべき金員があることを考えると、控訴人がみどりタクシーより些かの無償譲渡をも受けたものでないことが明らかである。

(三)、控訴人は昭和三二年三月二〇日みどりタクシーの前代表取締役訴外山口隆美からみどりタクシーの全財産を金一、三三〇万円で譲受け、昭和三四年八月二〇日安全タクシーにこれを金一、四〇〇万円で売却したものである。したがつて、仮りに控訴人が右金一、四〇〇万円全額を受取つたとしても、これをもつて無償譲渡であるということはできない。

(四)、控訴人が被控訴人ら主張のようにみどりタクシーから自動車一台を譲受けた事実は認めるが、右自動車の時価が金六六万一、〇九一円相当である事実および右譲渡が無償でなされた事実はいずれも否認する。控訴人は安全タクシーの代表取締役訴外前盛人の了解のもとにみどりタクシーの新代表取締役訴外角十七から、二年半にわたりみどりタクシーの社長として尽すいした功労に対する退職慰労の趣旨で、右自動車を譲受けたものであつて、なんらの対価もなくしてなされた無償のものではない。また、右自動車は中古車であり、その時価は金二五万円位のものである。

(被控訴人らの主張)

一、控訴人は広島東税務署長がみどりタクシーに対してなした法人税賦課決定の無効理由の一つとして、昭和三七年法律第四三号による改正前の法人税法第七条第五項に定める「みなし事業年度」を適用しなかつたことを主張する。しかし、同条同項にいう「解散」とは、あくまでも当該法人が民法、商法等に所定の手続に従つて解散した場合を指称するものであり、営業を他に譲渡したのみで、法定の解散手続を履践していない場合を含まないことはいうまでもない。そして、本件においては、みどりタクシーは有限会社であるが、その営業を安全タクシーに譲渡した後、有限会社法所定の解散手続を全く行つていないのであるから、同条同項に定める「みなし事業年度」を適用すべき余地はない。

二、みどりタクシーより安全タクシーに対し、原判決認定のように営業譲渡がなされたものとみるのが相当であり、控訴人主張のように、みどりタクシーの新旧代表取締役の交替或いは控訴人の持分(出資)の譲渡がなされたものとみるべきものではない。

(一)、控訴人において、その主張の根拠とする甲第三号証(覚書)が控訴人と訴外角十七との間に取交わされた経緯は、つぎのとおりである。すなわち、みどりタクシー、安全タクシー両会社間の営業譲渡契約の締結後、控訴人は国際興業株式会社に就職するため、早急のうちに神戸へ転居することを迫られ、みどりタクシーの債務の弁済、未収金の回収等の整理事務をなす余裕がなかつたので、安全タクシーの代表取締役訴外前盛人に、その事務処理方を依頼懇請したところ、前盛人はこれを諒承し、その輩下の角十七をしてその衝に当らせるために、急拠同人をみどりタクシーの代表取締役に就任させることとし、甲第三号証(覚書)は、控訴人と角十七との間で、その事務引継のために作成されたものである。したがつて、甲第三号証(覚書)の当事者の表示は、甲第二号証(売買契約書)の記載となんら矛盾するものではない。

(二)、もし、控訴人の主張するように、みどりタクシーと安全タクシーとの間で営業譲渡がなされたものではなく、控訴人の持分の譲渡或いはみどりタクシーの新旧代表取締役の交替にとどまるというのであれば、その後においても、みどりタクシーは自己の名でタクシー営業を継続していてよい筈である。ところが、実際には、みどりタクシー、安全タクシーの陸運局に対する増減車申請は認可され、譲渡されたタクシーはすべて安全タクシーの名義に発更され、安全タクシーの営業のために使用されており、みどりタクシーは、本来の営業を全く行つていないのである。

三、(一)、仮りに、真実は、控訴人の主張するように、みどりタクシーの両代表者個人間の持分(出資)の譲渡であるとしても、本件に顕われた諸般の証拠からみれば、原判決の認定したように、みどりタクシーより安全タクシーに営業譲渡がなされたものと認めうる余地もまた十分に存するのであつて、何人が見ても、営業譲渡と認めうる余地が全くないような事案ではない。

(二)、したがつて、仮りに、広島東税務署長が営業譲渡と認定したことが客観的には誤認であつたとしても、それが重大かつ明白な瑕疵であるとは到底言いがたく、単に取消事由にあたるにすぎないものである。

理由

当裁判所も控訴人の請求はいずれも失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、つぎのとおり付加訂正するほか、原判決理由記載の判断説示と同一であるから、これを引用する。

(一)、原判決一四枚目裏六行目以下同一五枚目裏三行目までを「被告らは、第二次納税義務者は主たる納税義務者に対する課税処分(以下第一次課税処分ともいう)の違法を主張して自らも右第一次課税処分に対する取消訴訟の原告たる適格を有するのであるから、第二次納税義務者に対する課税処分(以下第二次課税処分ともいう)の争訟中において、第一次課税処分の違法を主張して第二次課税処分を争うことは許されないと主張する。ところで、第二次納税義務の制度は、納税者の財産につき滞納処分を執行しても、なおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、形式的には財産が第三者に帰属しているとはいえ、実質的にはこれを否認して、納税者にその財産が帰属していると認めても公平を失しないような場合に、その形式的な財産帰属を否認して、私法秩序をみだすことを避けつつ、その形式的に財産が帰属している第三者に対し補充的、第二次的に納税者の納税義務を負担させることにより租税徴収の確保を図ろうとする制度であり、第二次納税義務者の納税義務は主たる納税義務者のそれとは法律上別個のものであるが、主たる納税義務に対し附従性(主たる納税義務について生じた消滅変更の効力が原則として第二次納税義務に及ぶ)と補充性(主たる納税義務の履行がない場合に限つて、第二次的に履行の責任を負う)を有するものと解するのが相当である。そこで、主たる納税義務者に対する第一次課税処分に違法の瑕疵がある場合、第二次納税義務者が右課税処分に存する右瑕疵を主張してその処分の取消訴訟を提起しうるか否かはさておき、第二次納税義務者は、第一次課税処分に右瑕疵が存することを理由に自己に対する第二次課税処分もまた右瑕疵を有し、これがため第二次課税処分が無効もしくは取消しうべきものであることを主張しうるか否かについて考えるのに、第一次課税処分と第二次課税処分とは前記のとおり別個の処分であるから、第一次課税処分に瑕疵があり違法であるとしても、その違法性は第二次課税処分に承継されるいわれがなく、したがつて、第二次納税義務者は第二次課税処分に第一次課税処分の違法性が承継されたものとして、これを理由に、第二次課税処分の無効もしくは取消を求めることは許されないものというべきである。しかしながら、第一次課税処分に重大かつ明白な瑕疵があつて無効事由にあたる場合には、第二次課税処分の第一次課税処分に対する前記附従性の性格により、第二次課税処分もまたその効力を発生するに由なく、無効であるというべきであるから、本件においては、第一次納税義務者であるみどりタクシーに対する課税処分に無効事由がある場合には、それがため第二次納税義務者である原告に対する課税処分もまた無効となるものと解するのが相当である。」と訂正する。

(二)、同一五枚目裏六行目の「ある旨主張して」を「あることを前提として」と、同七行目の「無効であることを争うと共に」を「無効であると主張するとともに」とそれぞれ訂正する。

(三)、同一七枚目表七行目の「原告は右売買代金を受領して自己の所得とし」を「原告はみどりタクシーの代表者として右売買代金を受領し(なお原告は後記認定のとおり受領した右代金の一部をもつてみどりタクシーの債務を弁済し、その残部を自己の所得とし)」と訂正する。

(四)、同一七枚目裏三ないし五行目の「昭和三四年八月当時タクシー業界で営業の譲渡が行われなかつたとの供述部分」を「右認定に反する部分」と訂正する。

(五)、同一八枚目表二行目の「認められ、」以下同六行目の「一応解することができる以上」までを「認められるが、右事実をもつてしても、いまだ前記認定を覆えす資料となしがたく、右のように、みどりタクシーと安全タクシーとの間に営業権等の譲渡がなされたものと認められる以上」と訂正する。

(六)、同一八枚目表七、八行目の「第二次納税義務」のつぎに「者」を加える。

(七)、同一八枚目裏五行目の「原告は」のつぎに「昭和三八年三月九日付けで」を加える。

(八)、同二〇枚目表三行目のつぎに「3、原告は、本件納付通知書には『年度三六、税目法人、納期限三六・五・二九』の記載があるところ、右記載どおり昭和三六年度の滞納法人税であるとすれば、その納期限は同年六月三〇日となり、したがつて、国税徴収法三九条に定める『法定納期限の一年前の日以後』とは昭和三五年六月三〇日以降となるが、原告は昭和三四年八月二〇日みどりタクシーの代表取締役を辞任しているから、同条所定の第二次納税義務を負担する理由がないと主張する。しかし、成立に争いのない甲第一号証、証人西本展清の証言ならびに弁論の全趣旨を総合すると、みどりタクシーが滞納した法人税は昭和三四年五月一日以降昭和三五年四月三〇日までの間の事業年度にかかるものであり、その法定納期限は同年六月三〇日であるが、みどりタクシーはその法定納期限までに確定申告をしなかつたため、昭和三六年四月二八日その納期限を同年五月二九日として賦課決定をしたものであることが認められるから、右認定に反する事実を前提とする原告の前記主張は採用できない。」と訂正する。

(九)、同二〇枚目表四行目の「3」を「4」と訂正する。

(一〇)、同二〇枚目裏七行目の「七丁目である事実を併せ考えると、右記載どおり被告局長が納付催告書を発したものと認定するを相当とする。」を「七丁目である事実ならびに証人西本展清の証言を合わせ考えると、右記載どおり、被告局長が同年四月一三日に納付催告書を発し、右納付催告書はその頃原告に到達したものと認めるのが相当である。」と訂正する。

(一一)、同二〇枚目裏一〇行目のつぎに「右認定の事実によると、被告局長は原告に対し、その納付期限である昭和三八年四月一二日より国税徴収法第三二条第二項所定の二〇日以内である同月一三日に納付催告書を発してその督促をなし、ついで被告署長が、右納付催告書を発した日から起算して同法第四七条第一項第一号所定の一〇日を経過した後の同年六月二〇日に差押処分をしたものというべきであつて、右差押処分が右各法条に違反するという原告の前記主張は採用できない。」を加える。

(控訴人の当審における主張に対する判断)

一、控訴人は、みどりタクシーが昭和三四年五月一日から昭和三五年四月三〇日までの間の事業年度の中途である昭和三四年八月一七日に事実上解散をしたから、みどりタクシーに対する賦課処分には、当時施行の法人税法第七条第五項の規定を適用しなければならないのにかかわらず、右規定を適用していないから無効であると主張するが、同条同項に定める「解散」というのは民法、商法等にもとづいて法律上解散の効果を生じた場合を指称し、控訴人主張のように事実上の解散をした場合をいうものではないから、みどりタクシーに対する課税処分には同条同項の規定が適用されるいわれはなく、したがつて、右規定の適用があることを前提とする控訴人の主張は採用できない。

二、控訴人はみどりタクシーから無償で財産を取得したものでないと主張するので判断する。

(一)、前記引用にかかる原判決認定の事実(原判決一六枚目裏二行目から同一七枚目裏二行目までに記載の事実)に、成立に争いのない甲第七号証の九、乙第三号証の一、二、第四号証、第五号証の一、二、第六号証、第七号証の一、二、第八号証の一ないし三、第九号証、第一〇号証の一ないし四、第一一号証の一、二、第一二号証の一ないし五、第一三号証の一ないし一二、第一四号証、第一五号証の一ないし一一、原審証人西本展清の証言、原審における控訴人本人尋問の結果によると、みどりタクシーは昭和三四年八月二〇日安全タクシーに対し事業用自動車および営業権を譲渡し、安全タクシーより前渡金一五五万円、同日現金三九五万六、九五三円、翌二一日安全タクシー振出にかかる約束手形一二通額面合計金七三三万八、九二九円(乙第一三号証の一ないし一二の約束手形であつて、その額面総額は譲渡代金の内金六八〇万円に約定利息を付加した金額であり、いずれも後日決済ずみ)の各交付を受けたが、以上のとおり譲渡代金として受領した総合計金一、二八四万五、八八二円のなかには控訴人所有の建物の売却代金一七〇万円が包含されているので、これを控除すると、みどりタクシーの事業用自動車および営業権の譲渡代金として受領した金額は、その残額金一、一一四万五、八八二円となること、控訴人はみどりタクシーの代表者として安全タクシーから右のとおり金一、一一四万五、八八二円を受領して、内金六〇三万五、一三〇円を、みどりタクシーの手形債務金四万五、一三〇円(控訴人主張の原判決事実摘示二、2、(一)、(4)、(イ)記載の金四万五、一三〇円にあたる)と、借受債務金五九九万円(同(ロ)記載の金五九九万円にあたる)との支払に充当し、右充当後の残金五一一万〇、七五二円を、車両一台(時価金六六万一、〇九一円相当)とともに無償でみどりタクシーより譲受け合計金五七七万一、八四三円の利益を受けたことが認められ、成立に争いのない甲第一〇号証、原審における控訴人本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は措信しがたく、他に右認定を覆えすに足る証拠はないから、控訴人はみどりタクシーから無償で財産を譲受け金五七七万一、八四三円の利益を受けたものというべきである。

控訴人はみどりタクシーから無償で財産を譲受けたものではない事由として前記事実摘示三の(一)ないし(四)の事実を主張するが、その主張事実自体に徴して、前記無償譲受の判断の妨げとなるものではないから、控訴人の右主張は採用できない。

控訴人は右認定のとおりみどりタクシーより無償で財産を譲受け金五七七万一、八四三円の利益を受けたものというべきところ、被控訴人局長は控訴人の納税額を金五七八万二、九九三円とする納付告知処分をなし、右納税額と控訴人の利得額との間にはいささか金額の差異のあることが認められるのであるが、控訴人から、納付告知処分が右金額の差異により無効となる旨の主張がないのみでなく、また右程度の金額の差異をもつてしては、納付告知処分が取消さるべき瑕疵を有しているか否かはともかく、当然に無効な処分であるとは言いがたく、したがつて控訴人の納税額は右納付告知書記載の金額である金五七八万二、九九三円に確定されているものというべきである。

そうすると、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから棄却し、控訴費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 増田幸次郎 西内辰樹 三井喜彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例